弁護士 味村祐作の公式ブログ

イスラム法の授業

インドネシア大学留学時にイスラム法の基礎を勉強しました。その際に、備忘録として書いたブログ記事を移管します。

冒頭の写真は、ジャカルタにある東南アジア最大規模のイスティクラル・モスク(Mesjid Istiqlal)の内部で撮影したものです。男性と女性で、お祈りする場所が別けられているのが分かりますね。

ここは、ジャカルタの数少ない観光地の一つでもあり、観光客が入っていくと、靴を預ける場所に通され、おじさんが案内してくれます。

帰り際に、お礼として寄付するといいと思います。

●2016-03-17 の記事

イスラム法 (1) (Islamic Law) 

インドネシアは、世界最大のイスラム教徒を有する国で、人口の88%がイスラム教徒です。このような事情で、法学部でもイスラム法が必修科目になっています。

私も興味本位で履修していますが、イスラム用語に馴染みがないことや、そもそも用語がアラビア語であるため、なかなか苦労しています。

備忘録を兼ねて、勉強したことを少し書いていきたいと思います。

イスラム教は、610年、預言者ムハンマド(当時40歳)が、メッカのヒラ洞窟で、瞑想中に、大天使ガブリエルから、アッラーの啓示を受けたことから始まります。

「イスラム」とは、字義的には「平和」を意味し、専門用語的には「アッラーの意思に帰服する」という意味を有するとのことです。

イスラム教徒はムスリムと呼ばれていますが、どうすればムスリムになれるのでしょうか。方法は、二つあります。

一つは、ムスリムの両親から、生まれること。

もう一つは、「Shahadah」と唱えること。

Shahadahとは、アッラー以外に神はなく、ムハンマドは預言者であるということを信じるという意味とのことです。

イスラム法を学ぶにあたり、イスラム教についての基礎知識が必要です。日本人には、なかなか馴染みがないですよね。

イスラム教には、Iman「信」(信ずること)とIbadah「行」(実行すること)という部分があり、以下のようになっています。

6つの信

・唯一神アッラーの信仰

・神の預言者の信仰

・アッラーが人の指針となる経典を啓示したことの信仰

・天使(神の創造物の一つとして)の信仰

・来世および審判の日の信仰

・天命の信仰

なお、上記6つのほかに、「羞恥心」も信の一つとのことです。羞恥心がなければ、人は欲することを何でもしてしまうからだそうです。

5つの行

・Shahadah: アッラー以外に信仰対象がなく、ムハンマドは預言者であるとの告白

・Salah:1日5回の礼拝

・Zakat:喜捨

・Haji:メッカ巡礼

・Fasting:断食

この後、イスラム教と世俗主義(Secularism)の話が紹介されましたが、イスラムには、「世俗主義」、「非宗教化」という考え方自体がないとのことでした。

●2016-03-19の記事

イスラム法(2) (Islamic Law 2)

現役大学生やインドネシア人弁護士に聞いたところでは、イスラム法は、インドネシア人のムスリムにとっても、難しい科目のようでした。

確かに、日本人でも、仏教や神道のことをきちんと理解している人は、あまりいないですよね。

私も、仏教徒ですが、サンスクリット語は出来ませんし、お経をきちんと理解しているわけではありません。

インドネシア人も、似たような感じなのかもしれません。

Pesantren(プサントレン:寄宿制のイスラム学校)に、高校時代に通っていたインドネシア人の友人は、アラビア語ができて、イスラム教にも詳しいですが、それ以外の大部分のインドネシア人は、ムスリムであっても、アラビア語は出来ないですし、それほどイスラム教に詳しいわけでもないように思います。

さて、勉強の続きです。

イスラムとは、法・ルールの宗教であると言われています。

すなわち、イスラムは、①ムスリムにより私的に実践される「人とアッラー(神)」との関係を規律するルールだけでなく、②実践するには、国家的支援が必要とされる社会生活における「自分と他人」および「人と物」との関係を規律するルールをも含んでいます。

これは、イスラムの「宗教的側面」と「法・ルールとしての側面」とを別々に論じることが出来ないことをも意味しています。

この点が、イスラムと他の宗教との違いでもあります。例えば、キリスト教の教義は、人と神との関係のみを規律しているとのことです。

イスラム教の構造は、以下の3点から成っています。

(1) Aqidha(信仰)

6つの信

・唯一神アッラーの信仰

・神の預言者の信仰

・アッラーが人の指針となる経典を啓示したことの信仰

・天使(神の創造物の一つとして)の信仰

・来世および審判の日の信仰

・天命の信仰

(2) Sharia(シャーリア)

シャーリアとは、アラビア語で、逐語的には「不断の水源に続く広大な道」という意味ですが、内容的には「イスラム教徒の生き方の指針・ルール」を意味します。

すなわち、①Ibadah(人と神との関係)だけでなく、②Muamalah(社会生活における自分と他者との関係、人と物および自然環境との関係)をも規律するルールです。

そして、シャーリアは、契約や家族に関する法的事項以外にも、環境保護や貧困者のケア、そして礼拝や断食といった事項をも含むものであることから、所謂「イスラム法」より、範囲の広い概念といえます。

シャーリアは、コーランおよびスンナ(ムハンマドの言動)による啓示されたルールです。シャーリアは一般的・基礎的な原則であり、その内容が固定され、変更できないものです。

他方で、Fiqh(イスラム法学)とは、シャーリアでは直接的に解を見いだせない特定事項について、学者がシャーリアから演繹(解釈)して導く法解釈学をいいます。Fiqhは、特定事項に対するもので、時代や環境に応じて変更され得るものです。

(3)Akhlaq(道徳や美徳)

これは、①神に対する道徳と②人やそれ以外のモノに対する道徳に分けて考えられます。

P.S. クラス写真

今学期の前半講義は、マレーシア(クアラルンプール)のUniversity Malaya(マラヤ大学)の SITI ZUBAIDAH BINTI ISMAIL, Phd先生が担当してくれていました。インドネシア大学のイスラム法講師の予定が、合わなくなったからのようです。

● 2016-03-20の記事

イスラム法(3) (Islamic Law 3)

「イスラム法」という用語を使う場合、①Sharia(シャーリア)と②Fiqh(フィクフ)を合わせた意味で使われることがあります。

シャーリアとは、コーランおよびスンナ(ムハンマドの言動)に基づく啓示されたルールです。一般的・基礎的な原則であり、その内容は変更できないという性質があります。

他方、フィクフとは、シャーリアに直接示されていない事項について、学者がシャーリアを基に導く法解釈学をいい、特定事項に対するもので、時代や環境に応じて変更され得るという性質があります。

それでは、フィクフの発展の歴史を簡単に見ていきましょう。6つの時代に分けて考えられています。

(1)Foundation(609~632年)

ムハンマドが生存していた時代です。

ムハンマドを通じて、コーランが、問題に対する答えを啓示していました。

例えば、ワイン(アルコール)やギャンブルについて、コーランは、それらの効能より、害悪の方が大きいという理由で禁止しています。

(2)Establishment(632~8世紀中頃)

この時期に、イスラムは、ヨルダン、エジプト、イラクなどの地域に広がっていきました。

それと同時に、異なる文化と触れ合い、シャーリア(コーランおよびスンナ)ではカバーされていない新たな問題が発生してきました。そこで、そのような問題に対応するため、フィクフ(イスラム法学)が発展しました。

新たな問題が発生した場合は、次のステップで対応されます。

①まずは、コーランで答えを探します。

②コーランで答えが見つからないときには、ムハンマドの言動であるスンナを調べます。

③それでも答えが見つからないときには、Sahabat(サハバ)(教友)を集め、問題に対する共通見解を得ます。これは、Ijma(イジマ)(イスラム法学者の共通見解)と言われます。

④共通見解に至らないときは、多数説を採用します。

⑤見解の相違が複雑なときは、Ijtihad(イジュティハード)を採用します。

Ijtihadとは、「独自の推論・解釈理論」を意味するイスラム法学の用語です。

(3)Building (ウマイヤ朝の時代:661年~8世紀中頃)

この時代には、Ummah(共同体)の分割、Ulama(ウラマー)(イスラム法学者)やその教え子の分散があり、それぞれ新しい問題に対応するためのIjtihadが増えていきました。それに伴い、Mazhab(イスラム法学校)も発展していきました。

また、Hadith(ムハンマドの言行禄)の製作も行われるようになりました。

(4)Flowering (アッバース朝:8世紀中頃~10世紀中頃)

(5)Consolidation(アッバース朝:960年~13世紀中頃(モンゴル襲来))

この時期に、Mazhab(イスラム法学校)が4校(現存)になり、それぞれIjtihadを形成していくようになりました。また、様々なHadithの作製が始まりました。

(6)Stagnation and Decline(1258年~現在)

この時代になると、新たなIjtihadの形成はなくなり、これまでのものを守る時代になりました。

次に、イスラム法の法源についてです。

以下のように整理されています。

1.第1次的法源

Revealed Sources (啓示に基づく法源)

・The Quran : コーラン

・The Sunnah: ムハンマドの言動(広義)

ここで、Sunnah(スンナ) とHadith(ハディース)の位置づけが気になります。

二つの言葉は、同義なのか、それとも違う意味を有するのかは、諸説あるところのようです。講義では、次のように説明されていました。

Definition of Sunnah:

The words and deeds of the Prophet s.a.w.

・The words are called Hadith.

・The actions and practices are sunnah.

この理解によると、ムハンマドの言動を意味する広義のスンナは、ハディースと言われる「言葉」と、狭義のスンナにあたる「動作や実践」から構成されています。

2.第2次的法源

Ijtihad (イスラム法学者がコーランやスンナに基づき、導き出す見解)

・Ijma(イスラム法学者の共通見解)

・Qiyas(類似事項からの演繹的推論)

・Istihsan(公共の利益)

・Istislah(法的推論)

・Urf (慣習)など。

************************************

上記記事に対して、Makmur氏よりコメントをいただきました。

Makmur. SH.MKnのコメント:2016年12月14日 12:25 PM

イスラム法関連記事をインタネット調査により、思わずにしざわBlogを見ました。
インドネシアのUniversitas 17 Agustus 1945 Jakarta Faculty of Law, 及び
Universitas Jayabaya Faculty of Public Notary を卒業した、日本語検定試験2級合格、Makmurと申します。

上記のイスラム法に関する内容を読んで、勉強になったことと、自己紹介をすることて、このメッセージを差し上げます。

マクムル

自宅住所 Lippo Cikarang

Mobile :+62-*****

************************************

● 2016-03-24の記事

イスラム法(4)

第2次的法源の具体例をいくつか紹介したいと思います。

・Ijma(イスラム法学者の共通見解)の具体例としては、飲酒の罰則があります。

飲酒は、コーランで「禁止」されていますが、「罰則」規定はコーランにありません。「罰則」は、イジマで決められています。

飲酒に対する罰則は何かという問題に直面したイスラム法学者が、その合意に基づき罰則を決めました。

そのため、時代や地域によって、その罰則の内容が変わり得ることになります。

・Qiyas(類似事項からの演繹的推論)の具体例としては、有害薬物の禁止があります。

コーランで、アルコールは有害なものとして禁止されていることから、かかる事項を前提に推論して、有害薬物(覚せい剤や大麻)も禁止しました。

もちろん、治療のための薬は認められています。

・Istihsan(公共の利益)の例としては、妊娠中の離婚禁止、紛争中の武器販売の禁止、ワインメーカーへのブドウ販売の禁止などがあります。

以上

※上記は、諸説あるものを、筆者の理解を踏まえて表現したものに過ぎません。また、その内容の正確性は、一切保証できません。

弁護士 味村祐作

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