インドネシアで合弁会社を設立する際には、インドネシア人パートナーとの間で、合弁会社の事業内容、運営方針などの基本的事項を定めた合弁契約(Joint Venture Agreement:JVA)を作成することと思われます。 合弁会社の株主間の契約ですので、株主間契約(Shareholders Agreement)と呼ばれることもあります。
今回は、合弁契約書を作成する上での注意点や一般的な記載事項を確認したいと思います。
なお、インドネシア会社法(以下「法」といいます。)は、株主を2名以上要求しているので(法7条1項)、厳密には、全ての株式会社で合弁契約書を作成することが望ましいです。
ここでは、日本側株主とインドネシア側株主がいるパターンの合弁契約を想定しています。
1 まずは、合弁契約書を作成する。
パートナーとの信頼関係が強い場合には、合弁契約書を作成しないまま、口約束で事業を進め、インドネシア側のパートナー任せで合弁会社を設立することもあろうかと思います。しかし、信頼関係は、その後のビジネスの成行きにより、変化します。
まずは、合弁会社設立にあたって、合弁契約書を作成することを忘れないで下さい。
2 合弁契約書の記載内容
次に、合弁契約の内容として、どのような事項を定めていくか、見ていきましょう。合弁契約で定めた内容は、可能な限り、合弁会社の定款に反映させる必要があります。
(1)事業内容
合弁会社で行う事業内容を定めます。
事業内容を定め、それに沿ったKBLIや事業許可を取得する必要があります。また、多数派株主が、一方的に事業内容を変更・拡大することを防止する機能も果たします。
KBLIとは、 「Klasifikasi Baku Lapangan Usaha Indonesia 」の略で、「インドネシア標準産業分類」と訳されます。最新のKBLIは、2017年19号中央統計局長令で定められています。
(2)株主の義務
・出資義務
株主は合弁会社に出資するところ、適切なタイミングで合意どおりの出資が行われるように、出資方式(金銭出資又は現物出資)、払込期限や払込遅延の場合のペナルティなどを定めておくことが考えられます。
・その他の期待事項の遵守義務
日本側株主に求められる事項としては、①資金の出資のほかには、②技術移転、③技術者や経営者などの人の派遣があげられます。
他方で、インドネシア側株主に対する期待事項としては、①政府当局への対応・関係構築、②現地の取引先の開拓・関係維持、③合弁会社の人事労務管理があげられます。
なお、外国人(日本人)は、人事労務に関する役職には就けないこと(労働法(2003年13号)46条1項)に留意が必要です。
ここで、よく問題となる点として、日本側から原材料を仕入れる場合の仕入価格の適正さ、他方で、インドネシア側の関係会社に製品を販売する場合の販売価格の適正さを、どのように確保し、約束しておくかということがあります。
また、インドネシア側に取引先開拓を期待する場合には、ノルマ等を課すことも考えられます。
(3)資本構成(株主総会)
外資規制の範囲内で、株主間の資本構成を定める必要があります。この際には、会社法を考慮して、株主総会で、いかなる事項につき議決権を確保するかを検討します。
株主総会における会社法上の議決権に関する定めは、定款で加重されている場合を除き、以下の通りです。
●普通決議事項: 議決権ベースで過半数の株式を有する株主の出席、かつ議決権ベースで出席株主の過半数の賛成を要する事項(会社法86条1項、87条2項)
例えば、
・取締役及びコミサリスの選解任(会社法94条1項、105条1項、111条1項、119条)
・取締役及びコミサリスの報酬(96条1項、113条)
・コミサリスの監査報告及び財務諸表を含む年次報告書の承認(69条)
・配当(71条1項)
・複数の取締役間の権限分配(92条5項)
・授権資本枠内での増資(42条2項)など
●特別決議事項:別段の定めがない限り、議決権ベースで3分の2以上の株式を有する株主が出席し、かつ議決権ベースで出席株主の3分の2以上の賛成を要する事項
・定款変更(88条1項)
・授権資本枠を超える増資(42条1項)
・減資(44条1項)
・自社株式買戻し(38条1項、2項)
●特殊決議事項: 議決権ベースで4分の3以上の株式を有する株主が出席し、かつ、議決権ベースで出席株主の4分の3以上の賛成を要する事項(89条1項)
・吸収合併 (123条3項 、127条1項) 、新設合併(124条、127条1項 )
・ 買収(経営権移転を伴う株式取得)(125条4項、127条1項 )
・会社分割(127条1項)
・会社の存続期間の延長(89条1項)
・50%超の会社資産の譲渡又は担保提供(102条1項、5項)
・破産申立て(104条1項)
・解散(法142条1項a)
外資規制により過半数をとれない場合などに、種類株式(無議決権株式)の利用により、議決権を確保することも、理論的には検討できますが、その都度、可能か否か要確認が必要となります。
●拒否権の設定
定足数や決議要件を会社法の定めより、重く定めることは可能です。
少数株主の場合には、取締役の選解任、定款変更、増資、借入等の合弁会社の経営上重要な事項については、全株主の同意を要するとして、拒否権を設定することも考えられます。
また、出資比率に応じて、取締役の指名権を規定しておくことも考えられます。
(4)取締役・取締役会
取締役の数、取締役会の招集手続き、定足数、決議要件などを定めます。
取締役会の決議事項や招集手続きは、会社法上定められていないため、合弁契約及び定款で定める必要があります。
取締役会の決議要件を過半数とすることが多いですが、日本側株主とインドネシア側株主が選出した各取締役の賛成を要するなど、拒否権を定めることもあり得ます。
●代表権の定め
会社法上は、すべての取締役が会社を代表する権限を有します(98条2項)。
しかし、代表取締役社長(President Director)のみが代表権を行使できるなどのように、他の取締役の代表権を制限することが一般的と思われます。
合弁会社では、日本側・インドネシア側のいずれもが合弁会社を代表できるように複数の取締役に代表権を与えることや、共同でのみ代表権を行使できると定めることが考えられます。
(5)コミサリス・コミサリス会
コミサリス会の決議事項や招集手続きも、会社法上定められていないため、合弁契約及び定款で定める必要があります。
(6)資金調達
事業の性質上、追加出資が予定される場合には、株主の追加出資義務やその条件等を定める必要があります。日本側が追加出資が必要と考える場合でも、インドネシア側の理解が得られず、追加出資できないということが想定されます。
また、合弁会社が借入を行う際の手続きを定めることも考えられます。
(7)配当政策
配当方針を定めておく必要があります。
一般に、インドネシア側は、配当を求める傾向にあります。
(8)競業禁止義務
インドネシア側が、合弁会社を通じて得た技術・ノウハウを用いて、別に事業を行うことを防止する必要があります。
競業禁止の地理的範囲、期間、競合に該当する事業範囲、当事者(グループ会社を含む)の範囲を定める必要があります。
また、提供を受けた技術やノウハウについて、守秘義務を課すことも必要です。
(9)調査権限
合弁会社の経営情報、会計情報などを調査する権限を株主に付与し、合弁会社及び他の株主は、当該調査に協力する義務を定めることを検討する必要があります。
特に、少数株主として出資する場合や、人を派遣しない場合には、合弁会社の運営状況がブラックボックスになってしまうので、情報開示や調査権限を付与する定めが必要です。
(10)株式譲渡
・同意条項: 合弁会社は、各株主の能力や信頼関係を基盤に設立されるものですので、他の株主の同意なく、株式を譲渡することを禁止するのが一般的と思われます。
合弁会社設立から5年程度の期間を定めて、株式譲渡を制限する等のロックアップ期間を設けることもあります。
・先買権条項: 仮に、株主が株式譲渡を希望する場合には、他方株主又はその指定する第三者(以下「他方株主ら」といいます。)に、当該株式を買い取る機会を与えることが考えられます。そして、他方株主らが株式を買い取らない場合には、他の第三者に、他方株主らよりも有利でない価格で譲渡するように定めておくことも一案として考えられます。
・売渡強制条項(コール・オプション): 株主に、①債務不履行や②支配権の移転、➂相続等の一定の事由が生じた場合に、当該株主が他方株主に対して、(他方株主の選択により)株式を売り渡す義務を定めておくことも考えられます。
そして、株式譲渡が起こりうる場合に備えて、譲渡対価の算定方法を定めておくことも必要でしょう。
(11)デッドロックの定義、解決方法
株主総会や取締役会において、拒否権を定めた場合には、長期間にわたり決議不可能となり、デッドロック状態に陥ることが想定されます。
どのような状態をもって、「デッドロック」と定義するか定めたうえで、その場合の解決方法を定めておく必要があります。
例えば、株式の買取や合弁会社の清算などが考えられます。
(12)債務不履行
他方株主に合弁契約上の義務違反が発生した場合に、どのような義務、サンクションが発生するか定めておきます。
金銭的賠償としては、違約金や損害賠償義務を規定することが考えられます。
また、合弁契約を解除することも考えられます。インドネシア民法においては、契約解除には裁判所の判決が必要なため(民法1266条)、同条の適用を排除しておくのが一般的です。
解除とともに、他方株主の株式を有利な価格で買い取る権利を定めておくことも考えられます。
(13)終了事由
どのような場合に、合弁契約を終了させるかを予め合意しておきます。
その場合には、会社を清算するのか、株式を他方当事者等が買い取るのかなどの処理方法を定めておくべきでしょう。
合弁契約の終了事由としては、①株式の譲渡、②重大な債務不履行、➂3期連続の赤字、④債務超過、資本金の50%以上の棄損などの事由を定めておくことが考えられます。
以上が、一般的な合弁契約書の記載事項や留意点になります。
※上記は、筆者の見解を交えた説明であり、個別事例への適用については一切の責任を負えません。個別の案件に関しては、別途ご相談ください。
P.S. 写真は、 コモドドラゴンのいるリンチャ島からの眺めです。
弁護士 味村 祐作
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