インドネシア法務というと、インドネシアに進出する日系企業の法人設立や契約書の整備、規制調査などが、インドネシア法務を取り扱っている企業系・渉外法律事務所の主たる業務内容だと思います。
私も、同様に、上記のような企業法務を行っているのですが、それに加えて、インドネシア人との離婚や相続などの国際的な家族法も取り扱っております。
(1)適用法の問題
日本とインドネシアにまたがる相続などでは、まず、どちらの国の法律が適用されるかという問題があります。日本では、「法の適用に関する通則法」に従って、適用法が判断されます。
「相続は、被相続人の本国法による。」(同法36条)と規定されているので、仮に、インドネシア人が亡くなった場合には、相続人が日本人であっても、被相続人(インドネシア人)の本国法であるインドネシア法に基づき、相続されるのが原則です。もちろん例外はあります。
次に、インドネシア法を適用する場合としても、インドネシアでは、特に家族法の分野において、宗教や人種グループにより、適用法が異なるという特徴があります。
インドネシア人の約9割は、イスラム教徒ですので、多くの場合でインドネシアのイスラム法が関係してきます。
インドネシアのイスラム法としては、インドネシア共和国大統領指令1991年1号で示された「イスラム法集成」(KOMPILASI HUKUM ISLAM)が参照されています。
イスラム法集成自体は、いわゆる法令ではなく、その法的位置づけが曖昧なのですが、宗教裁判所の裁判官が、判断を行う際に参照しているものになります。
ちなみに、イスラム法集成172条には、相続人はイスラム教を信仰するとみなされると規定されており、日本人の多くはイスラム教徒ではないので、これをどう対処するかが、一つの問題となります。
(2)コミュニケーションの問題
上記のとおり、インドネシア人との間で相続が発生した場合には、どの法律が適用されるかという問題もあるのですが、一番の問題は、コミュニケーションの取り方だと思います。
日本人同士の相続の場合でも、コミュニケーション・ミスにより、相続が「争続」と化すことがありますが、言語も宗教も文化的背景も異なる者同士の場合、コミュニケーションが不可能であるか、仮にできたとしても、コミュニケーション・ミスが生じるであろうことは容易に想像できます。
この点、私がインドネシア人の自宅を直接訪問して、インドネシア語でコミュニケーションをとって、話をすることもありますが、その場合でも、インドネシア人弁護士を同席させたり、インドネシア人弁護士に、敢えてコミュニケーションを依頼したりして、宗教・文化的背景から生ずるコミュニケーション・ミスをできるだけなくして、円滑に話が進むように心掛けております。
もちろん、法的に争いのある点については、きちんと論理立てて当方の主張を説明し、主張すべき点は主張しますが、それ以外の点で、不要な誤解を生じさせるのは得策ではないと考えております。
そこで、イスラム法関係の事件を取り扱う際には、インドネシア大学法学部の助教授で、イスラム法の専門家でもあるHeru Susetyo弁護士と共同で対応することが多いです。
※上記は、筆者の見解を交えた説明であり、個別事例への適用については一切の責任を負えません。個別の案件に関しては、別途ご相談ください。
弁護士 味村 祐作
この記事へのコメントはありません。